4回目のブログリレーのバトンが回ってきました。どうも映画好きのH.Tです。
今回は自分が前から注目している大好きな映画監督さんについて書いてみます。
その監督さんとは題でも示している通りに〝山内ケンジ〟という名前の人物です。
今まで撮った長編映画はまだ3本しかありませんが、その全てが実に面白い。
多分ご存じないかと思いますが「ミツコ感覚」「友だちのパパが好き」「At the terrace テラスにて」という3本。
それぞれに題材の違った映画でも3本とも〝山内ワールド〟に包まれています。
御年59歳で、決して寡作というわけではないのですが、山内監督は映画を志すに至るまでの経歴が変わっているのです。
まず映画と出会うまでの、まだ名前が漢字表記で〝山内健司〟だった頃、CM界でその名を馳せる事になります。
ご存じ「日清UFOヤキソバン」「NOVAの人」「ソフトバンク白戸家」など、多数のヒットCMを手掛けていました。
CMディレクターから日本映画の有名監督に昇りつめる人は割とおられますが、山内ケンジ監督はちょっと違います。
よくある出世コースでCMの業界から映画へ進出するのではなく〝山内ケンジ〟と名義を変えて、演劇の世界に足を踏み入れるのです。
〝城山羊の会〟というユニットを旗揚げして岸田國士戯曲賞を受賞するなど演劇の世界でも活躍するのです。
そんな才能の塊のような男〝山内ケンジ〟の魅力とは何かと問われると…独特のリズムとキャラ設定とシュールな発想にあります。
彼が手掛けた過去の名作CMを思い浮かべていただくとご理解いただけると思いますが、映像の編集と会話の応酬で詰め込まれた高速のテンポによって構築される15秒間。
類いまれな山内監督が繰り出すクセの強すぎる映像を目にしてしまうと誰もが思わず吹き出して笑ってしまうことでしょう。
ここで手掛けた映像作品の一例として、監督の魅力が存分に発揮されたCMをご覧ください。
「セキスイハイム/地震に強い家」
そう、このノリです。これこそが山内ケンジの世界です。
山内監督が生み出すその特徴的なリズム感は、15秒間でなく映画の約2時間のサイズに変わっても、そのまま維持しながらに炸裂させるのです。
白戸家のパパを白い犬に設定してしまうブッ飛んだ発想力は、映画では全く先の読めないストーリー展開へと転じて観る者を飽きさせないのです。
NOVAのCMでの英語で会話するオジサンのような強烈なキャラは、映画では主要人物として何人も登場して観る者にインパクトを残すのです。
非現実的な山内ワールドも長時間ずっと続けば、それなりに説得力を持ち始めて妙なリアル感を生みます。
変なリズム、変なキャラ、変なアイデア、この3つの要素は映画だと〝狂気〟と化します。
そんな狂気をカメラは被写体と絶妙な距離感を保ちながら映し出し、編集で心地よい不協和音を作ります。
初監督作品の「ミツコ感覚」では、ウザい男に付きまとわれる写真好きの妹と、上司と不倫している姉という、とある姉妹が見舞われるトラブルを描いています。
「ミツコ感覚」予告編
監督第二作目の「友だちのパパが好き」では、親友の父親が好きで好きでたまらない女子大生の暴走するピュアな愛情が引き起こす大事件を鮮烈に描いています。
「友だちのパパが好き」予告編
そして監督は第三作目にして『At the terrace テラスにて』という大傑作を生み落とすのです。
二本目までは監督の映画用のオリジナル脚本ですが、この「At the terrace テラスにて」は元々「トロワグロ」という監督自身が演劇作品として世に出した戯曲を映画化した作品です。
その「トロワグロ」は演劇界の芥川賞と呼ばれる名誉ある岸田國士戯曲賞を受賞したほどの伝説的な名作です。
舞台作品を映画化される時は、スタッフ・キャストなどが映画向きに一掃されることが殆どですが、本作の場合は監督も出演者もそのまま変えずに制作されました。
役が体に入り込んだ信頼ある役者陣で、原作を手掛けた山内監督の手で、衣装もそのままで、場所だけ舞台セットから実際のロケ地で、映画作品へとアップデートされました。
物語は専務の別荘で催されたパーティーが終わって来客がぞろぞろと帰り始めた頃にテラスで起きてしまった7人の男女の約90分間に渡る騒動を描いています。
面識の薄い人たち同士がぎこちなく会話の切っ掛けを探り探りで見付けていき、次第に会話が変調をきたして毒を撒き散らしていく人間の狂気をリアルに映し出します。
元々は舞台作品なので、いわば設定は邸宅のテラス以外は出てこないワンシチュエーションなので映画が凡庸になりかねませんが、山内監督の映像演出が冴えます。
会話が一方で盛り上がれば必ず傍観者のショットが挿入されて、室内と屋外を透けて隔てるレースのカーテンを効果的に使用するなど、カメラワークも神懸ってます。
本作は東京の劇場では記録的な連日の満席で賑わうなど大好評。自分が劇場へ観に行った2回ともほぼ満席でお客さんは満足気でした。
どんどん登場人物の裏の顔が暴かれていく展開と出演者たちの会話劇やリアクションの妙に劇場内は何度も笑い声に包まれていました。
「At the terrace テラスにて」予告編
本当に面白い!
ずっと山内ケンジ監督を追っかけていた自分を褒めてあげたくなったくらいに、現時点での山内映画の完成形となるクオリティの映画です。
わざわざ監督と出演者の舞台挨拶が行われる日に映画館へ足を運んで、サインしていただいたクリアファイルは永久保存しているほどです。
さて、山内ケンジ監督が如何に凄いかは伝わりましたでしょうか?
つたない絶賛文と予告編ばかりでなんか申し訳ないので、自分が山内ケンジ監督を敬愛するに至った初期の短編映像作品を、どうぞ最後にご覧くださいませ。
QUOQ short film「bunkatsu」