どうも、6回目のブログリレーのバトンが回ってきた映画好きのH.Tです。
今回は自分の1番好きな映画について語ってみます。
皆さんは「1番好きな映画は何ですか?」と質問されて、好きな映画は複数あれど1番が決められず返答に困ったことはありませんか。
自分にはそんな質問が身に降りかかってきた場合でも、迷わず答えられるように予め用意している1本の映画があります。
そんな(現時点での)1番好きな作品は『ピストルオペラ』という日本映画です。
ピストルオペラ(2001)
監督/鈴木清順
脚本/伊藤和典 美術/木村威夫
撮影/前田米造 音楽/こだま和文
主題歌/「サイコアナルシス」EGO-WRAPPIN’
出演/江角マキコ 山口小夜子
樹木希林 平幹二朗 韓英恵
永瀬正敏 沢田研二 加藤治子 他
未だに本作「ピストルオペラ」を超えるほどのドハマりする映画には出会えていません。
そのくらい初見時の衝撃は凄まじいものでした。
なんだコレは!?というヤバいものに遭遇してしまった初体験と、よっしゃー!と劇場の人とハイタッチを交わしたくなる高揚感に、鑑賞後は見舞われました。
当時は100点満点で400点という採点を付けたほどです。
劇場公開が終了するまでに何度か観に行って、もちろんDVDが発売されれば購入し、その後も特集や企画などでスクリーンでの上映がある度に足を運んだりしています。
年月を重ねれば重ねるほど情が移ってしまい、18年が経過した今でも尚一層ピストルオペラに愛着が募るばかりです。
本作は〝ピストルオペラ〟という題名通りに殺し屋の物語です。しかも殺し屋といえども男ではなく女が中心となる物語です。
でもオペラとは名ばかりで歌や踊りはごく僅かなシーンでしか観られず、決してミュージカル映画ではありません。しいて言うならばオペラのように派手な見せ場が満載の映画です。
描かれるは、ランク付けされた殺し屋たちが所属する組織のエージェント・上京小夜子からナンバー1の百眼(通称)の殺害依頼を受けたナンバー3の野良猫(通称)が巻き込まれていく不可解な殺し屋同士の銃撃戦。
姿を見せない謎めいたナンバー1の百眼とは一体誰なのか?
最終決戦に用意された場は世界怪奇博覧会!
果たして勝利してナンバー1の座に輝くは百眼か野良猫か?
要約すると、こんな感じのストーリーなのですが、本作は時間軸がバラバラに交錯しており、ストーリー性はどうでもいいような内容に仕上がっております。
一度観ただけでは、さっぱりワケが分からない。
正攻法でなく映画の文法を無視して撮られているので、ストーリーを追ってしまうと頭がこんがらがってしまう事でしょう。
元々、ピストルオペラは「殺しの烙印」という1967年に公開されたモノクロ映画の続編として制作されました。
ピストルオペラに同じく殺しの烙印はランク付けされた殺し屋たちの物語。
殺しの仕事でミスを犯したナンバー3がナンバー1から狙われる羽目になり、謎に包まれたナンバー1の思惑に翻弄させられながら、殺せば自分がナンバー1の座に輝けるという名誉欲の狭間で、次第に気を狂わせていく殺し屋ナンバー3の男を描いた映画です。
実を言うと、この殺しの烙印という映画は、製作した当時の日活の社長が「ワケの分からない映画を作るな!」と激怒して、メガホンを取った鈴木清順監督を解雇してしまい、訴訟問題にまで発展したほどの曰く付きの問題作なのです。
何故なら、炊飯器から白飯の炊ける匂いを嗅いでエクスタシーを感じる殺し屋ナンバー3が主人公という結構なシュールさなので、社長のお気持ちも察します。
しかし、殺しの烙印は知る人ぞ知るカルト映画として海外でも高い人気を得て、後には殺しの烙印の一場面を丸々パクる監督も現れてしまうほどの影響を与えました。
そんな殺しの烙印を、当時の解雇された鈴木清順監督本人でセルフリメイクされたのが「ピストルオペラ」なので、ワケが分からなくても当然なのかもしれません。
※ 続編なだけにピストルオペラの本編にも殺しの烙印のとあるキャラクターが重要なキーパーソンとして登場します。
そんなワケの分からない映画であっても本作を推す理由は、そのワケの分からなさを自分はブッ飛んだ面白さとして感じ取るからでしょうか。
・江角マキコが演じるナンバー3の野良猫という殺し屋は、和服の着流し(帯には猫の刺繍)にブーツを履いて人殺しを遂行するファッションスタイル。
・ナンバー3の野良猫と一戦を交える殺し屋たちは、ジャージを着た車椅子の殺し屋、痛覚が麻痺した殺し屋、慢性鼻炎の殺し屋という個性的な面々。
・殺し屋の通称名は野良猫や百眼の他に、昼行燈の萬、生活指導の先生、無痛の外科医、宴会部長、幽霊作家、蛇ばら、等々というユニークさ。
・面倒な質問をされた時にナンバー3の野良猫は返事として「ちゅうちゅうたこかいな」という台詞を呟いて相手を言いくるめてしまう。
・波打ち際に打ち上げられた巨大金魚、燃える万国旗、三島由紀夫の首と胴体を結び付ける、唐突に始まるそれぞれの登場人物が見た悪夢を語るシーン。
・銃弾に刻み込まれた4桁の数字、野良猫が暮らす和室に咲く芥子の花畑、偉人の似顔絵と名言が描かれたトタン壁の落書き、という印象的な場面の数々。
単なる殺し屋たちのアクション映画に過ぎず、要素を箇条書きにしてみると設定や展開がブッ飛んでいて余計になんのこっちゃ分からないかと思いますが、同時に意味深な感じで本作の面白さはなんとなくながらに伝えられたかもしれません。
それらのブッ飛んだ面白さは、監督の名を取って総じて「清順美学」と呼ばれています。
しかも清順美学は設定や展開だけに限らず、更には演出や構成にまでも垣間見れます。
建物の外観と内装が物理的にあり得ない構造だったり、効果音が流れるべき箇所を意図的にズラしてみたり、真正面に居た人物が次のカットで真横から現れたり、あえてハズシを取り入れてみるという編集テク。
まるでアニメのごとく着彩したかのように色彩が緻密に計算されていて、歌舞伎で見栄を切ったかのような完璧な構図のショットが連発して、全編が何かしらのお遊びを取り入れて貫かれているという映像美。
大正浪漫も、ロリータも、暗黒舞踏も、アングラも、全部ひっくるめて調和しながら、EGO-WRAPPIN’の中納良恵の歌声も、こだま和文のトランペットも、Little Tempoのスティールパンも、ムードを彩る音楽として効果的に作用して、スタイリッシュでケレン味たっぷり絢爛豪華に本編で花開いています。
役者陣も同等に、江角マキコは凛々しくアクションをこなし、山口小夜子は麗しくショウモデルの佇まい、韓英恵は子役ながら妖しい魅力を放ち、永瀬正敏はクールにとぼけて煙に巻き、樹木希林は名人芸で可笑しさをもたらし、東京駅で沢田研二が微笑みながら死ねば、富士山で平幹二朗が馬鹿ぁ!!!!と絶叫するなど、まるで鈴木清順監督に操られるかのように清順美学を構築するに貢献しています。
ストーリー重視ではなく、あくまでビジュアル重視に振り切った〝視覚の快楽〟を刺激し続けるという美意識こそが「清順美学」なのです。
さらに凄いのが、鈴木清順監督をはじめとするピストルオペラに関わった当時のスタッフは、なんとご高齢な方ばかり。
ピストルオペラの公開時で、鈴木清順監督が78歳、美術の木村威夫監督が83歳、撮影の前田米造監督が66歳、皆さんベテラン中のベテラン。
生きるレジェンドたちが結集して各々が素晴らしい仕事をこなす。そこには老化や老いぼれなんて言葉などは微塵も感じさせません。
ミュージックビデオ上がりの若手監督が作るようなオシャレだけが売りの映画では決して観られない、老人の狂気に満ち満ちています。
熟練の成せる業がアグレッシブに爆発した結果が、ピストルオペラという最高に格好いい映画を産み落とすまでに至ったのです。
でも実は、音声さんのマイクが見切れてしまったり、セットの巨木がグラグラと揺れてしまったり、絶対的にアウトな凡ミスも多々あるのですが、そんな粗でさえどうでもよくなってしまう魅力に包まれている傑作ではないかと、個人的には思うのです。
DVDのコメンタリーで美術の木村威夫監督が「この映画を一般の人が理解するには、あと十年かかるね」と言わしめた映画です。
果たして、公開から18年が経った今、あなたは本作『ピストルオペラ』を楽しむことができるでしょうか。
それでは、百聞は一見にしかず。ピストルオペラの特報と予告編、そして映画の冒頭からタイトルバックまでの2分30秒をご覧下さい。 これらのピストルオペラの関連映像を3本も観れば、如何に本作がアバンギャルドでクレイジーなのかが確実に伝わることかと思います。
<特報>
<本予告>
<オープニング>