どうも、9回目のブログリレーのバトンが回ってきた映画好きのH.Tです。
突然ですが、皆さんはお笑い芸人の バカリズム はご存知でしょうか?
かつてはコンビで活動し、解散を経てピン芸人となってブレイクを果たし、主には「トツギーノ」や「都道府県の持ち方」などシュールなフリップネタや一人コント、また大喜利で名回答を連発する才能などで知られた〝お笑い四次元ポケット〟の異名を持つ彼ですが、最近ではお笑い芸人という肩書きを超えた〝とある職業〟で活躍をしています。
それは 脚本家 としてのバカリズムです。
芸人とは違った仕事でマルチに実績を上げ続けているバカリズムの一端ともなった脚本家の顔を、今回はこの場で取り上げていきたいと思います。
という予定なのですが、もしもバカリズムが何者かをご存じない方は、こちらの「バカリズム Official YouTube Channel」にてネタなどの動画を何本か事前に御覧いただければ幸いです。
実を言うと、バカリズムは脚本家歴が結構ベテランで、ネタで自身が演じるコントに限らず、ドラマや映画などの裏方としての脚本も担当し始めて、既に10年以上というキャリアの持ち主なのです。
携わった作品は「ウレロシリーズ」「世にも奇妙な物語」「素敵な選TAXI」「かもしれない女優たち」「桜坂近辺物語」「黒い十人の女」といった数多くの番組を手掛けています。
唯一無二と評される笑いを産み出すバカリズムの世界観は脚本でも発揮されて、今までに観たことのないような設定のストーリーや、あっと驚く小技の効いた構成の展開、思わず吹き出さずにはいられないナチュラルすぎる会話劇など、まるでコント作りの延長線上にあるかのような極上のエンタメを書き上げます。
それはクセになる位、最高に面白いです。
しかし出来上がった脚本が如何に面白かろうが、その脚本を生かすも殺すも全ては、演出を担当する監督さんの力量に関わってきます。
あくまで監督業には加担せず脚本の仕事に徹するバカリズムですが、彼が作る脚本が独特すぎるあまりに演出する監督さんによっては、悲しいかな魅力が半減することも無きにしも非ずでした。
でも、バカリズム脚本の本質を〝わかっている〟とある監督さんと組んだ時だけは、ベストな化学反応が起きて、結果的に作品が爆発的に面白くなるのです。
その監督さんとは、住田崇 監督です。
住田監督は、バカリズムの感覚と実に相性が良く、超絶リアルな台詞を役者さんに自然な口調で喋らせて、日常のスケッチのような風景をスタイリッシュな映像として掬い取ります。役者に対しても撮影に対しても、バカリズム脚本を活かし抜く演出が見事なのです。
そんな「バカリズム脚本×住田崇演出」という最強タッグで創り上げられた最高に面白い作品の代表格といえば、深夜ドラマから始まって映画化までされた〝アレ〟しか考えられません。
それは、『架空OL日記』 という作品です。
想像しにくいかもしれませんが、銀行員OLが過ごす日々の生活を男性であるバカリズムが描き、しかもOLの女装をしたバカリズムが主演です。
とはいえ驚くなかれ、本編では全く違和感がありません。
元々はバカリズムがまだ売れていない頃に、趣味でOLになりきって毎日の出来事を妄想しながらアップしていたブログ「架空升野日記」が評判となり、書籍化までされたブログ本「架空OL日記1・2」を原作としているため、映像化する際には主人公の私という役はOLのふりをしてバカリズムが自ら演じるロジックになっています。
私役のバカリズムは、化粧やムダ毛処理などの女子の基礎としての身だしなみはしっかり小綺麗にしているものの、声色や喋り方は普段のバカリズムのままで、しかも心の声をモノローグで語るナレーションも務めます。
そんな素のまんまなバカリズムが、大の親友な同僚のマキちゃん、天然キャラな後輩のサエちゃん、しっかり者な先輩の酒木さん、姉御肌な頼れる先輩の小峰様からなる仲良し五人グループを中心とした登場人物たちと一緒に、同じOLとして溶け込んでいるのです。
主なストーリーとしては、基本的にOLが書くブログという設定なので、勤務が終わった後に仕事の愚痴や男性社員の悪口で戯れたり、仕事帰りにトレーニングジムやイタリア料理店に行って楽しかったという、日常生活のごくごく些細な報告談ばかり。
ドラマの第1話なんかは【更衣室のハロゲンヒーターが壊れてしまい寒すぎて困ってたら先輩が貯まったポイントカードで新品を買って来てくれたので皆で先輩を感謝で讃えました】というシンプルな出来事しか起きません。なのに何故か30分間ずっと最後まで飽きない。
その理由は、計算し尽くされた雑談 にあると思います。
女性の共感しかない〝あるある〟や、絶妙に張られた〝伏線〟や、誰も想像し得ない〝オチ〟などを、会話劇の中に自然に馴染ませながらストーリーを展開させていて、何気なく喋ってるいるかのように思える台詞でも、実はバカリズムの観察眼と妄想術からなる周到に緻密に精巧に考え抜かれた脚本が基盤となっているため、ドラマとして成り立つわけです。
また素で演じるバカリズムの他にも、劇中に登場する仲良しグループを始めとするOLの全員には女性らしい話し言葉を使わせない台詞回しで脚本を書いたとのこと。
そんな飾らない普段のOLの姿に思わず共感しつつ、何故こんなにも女心を分かってしまうのかとバカリズムの脳内に疑問を抱きながら、女性視聴者は存分に本作を楽しんだようです。
自らの脚本で作り上げた男子禁制な女子の輪の中に、自作自演で紛れ込む複雑で狂気めいた不思議な世界観の「架空OL日記」は、第36回向田邦子賞を受賞するなど高い評価を得た後に、改めて第2弾としてドラマではなく映画が製作されました。
でも劇場版とはいえ、大したスケールアップもせずに深夜ドラマとは特段ほとんど変わりはなく、いつものOLの他愛もない日常が約2時間ずっと続くだけで、ほぼ満席で埋まった映画館の客席は絶えず笑い声で包まれていました。
特に【大事なのは事実じゃなくて矛先】というワードは至言。傑作です。
このように中毒性を持つ架空OL日記の面白さは、ドラマが終了して3年、映画が公開して1年が経った今でも、口コミでハマる人がジワジワと広がっていて未だにファンを獲得し続けています。
既に自分はドラマ版も映画版もDVDの購入を済ませていて、いつでも架空OL日記の世界観に浸れる環境を自室に整えました。
もし気になった方がいらっしゃれば、HuluやU-NEXTやdtvなどの配信でも御覧いただけるようなので、この唯一無二の世界に一度ぜひ触れてみては如何でしょうか。
そして昨年の末には、架空OL日記に続く「バカリズム脚本×住田崇演出」の最強タッグによる新作が発表されていますので、そちらの方も紹介しておきます。
それは、『殺意の道程』 という作品です。
WOWOWの連続ドラマとして製作された本作は、架空OL日記とは毛色が異なって「殺意の道程」という題名の通りにサスペンス劇です。
小さな町工場を経営している父を自殺にまで追いやった取引先の大手企業の社長に復讐するため、息子の一馬(井浦新)と葬儀場で会った従兄弟の満(バカリズム)が完全犯罪による殺害を計画するストーリー。
しかしそこはバカリズム脚本なので、中身は 計算し尽くされた雑談 で展開します。
始まりこそはシリアスなものの、カズちゃん、ミッちゃん、と呼び合う一馬と満の仲睦まじさから会話は段々と脱線していき、普通のサスペンス作品では省略されるような〝いつどこで打ち合わせをするか〟や〝殺すために何の道具を買えばいいか〟などのエピソードを中心にして物語が進み始めます。
まさしく殺しを企てているにも関わらず二人がとる段取りの数々はナンセンスそのものですが、プロの殺し屋でない彼らにとっては当然ながら殺人に関してズブの素人なので、考えようではリアルな行動であると妙に納得できるわけで、思わず笑ってしまう面白さに繋がるのです。
例えば、殺害の実行日を決めるために約30分弱の一話が丸々ずっと占いをするだけで終わる回もありました。
架空OL日記ではバカリズムが主人公の心の声を担当していましたが、殺意の道程での心の声はカズちゃんのモノローグとして井浦新さんのナレーションが挿入されます。また架空OL日記では殆ど流れなかった音楽が、殺意の道程では存分に多用されています。井浦さんの真面目な低温ボイスで語られるくだらない本音と、大間々昂さん作曲によるサスペンスタッチな緊張感を駆り立てる劇伴が、どうでもいいようなシーンを意味ありげに盛り上げることで、更に観る者の笑いのツボが刺激される構造になっています。
ふとした切っ掛けで出会ったミステリー好きのキャバ嬢に本指名までして殺しに関する色んなレクチャーを受けながら、復讐のプロジェクトに向けて徐々に物事が運んでいくという意味での、カズちゃんとミッちゃんによる殺意の道程(みちのり)。
その結末は、無駄なようでいて実は巧妙に張り巡らされていた各話の伏線を回収しながら、想像の遥か斜め上を行くドンデン返しを迎えるという、まさにバカリズムの本領発揮な神脚本による幕引きでした。
そんな連続ドラマの仕上がりが良かったからなのか、本作も架空OL日記と同じく映画化されています。
1話につき大体30分弱で全7話分の約3時間半もある本編を、再編集して2時間の長さまでに凝縮された 『劇場版 殺意の道程』 として製作されました。
仲睦まじきカズちゃんとミッちゃんによる無意味なグダグダした会話劇を楽しみたい方は連続ドラマで1話ずつ御覧を、ある程度の無駄が削ぎ落とされた展開の面白さを味わいたい方は劇場版で一気に御覧いただければと思います。
連続ドラマ版の『殺意の道程』はいつになるか分からないWOWOWでの再放送を待つしかありませんが、劇場版は2021年の2月初旬から公開と配信がスタートされました。
シネコンではなく主にミニシアターなど規模の小さな単館劇場での公開と、auスマートパスプレミアムとTELASAでの配信です。
配信は3月いっぱいまで、そして残念ながら現在ほとんどの映画館では上映が終了してしまいましたが、この先まだ上映が始まる映画館も僅かながらに残っています。
もし作品が気になって近くに上映予定の映画館がある恵まれた方は、是非とも劇場版をスクリーンで楽しんでみては如何でしょうか。
以上、紹介したバカリズム脚本×住田崇演出による作品の他にも、これから先の5月末頃には『地獄の花園』というバカリズムのオリジナル脚本で、数々の名だたるアーティストのMVを手掛ける関和亮監督がメガホンを取った、ヤンキーOLが派閥争いを繰り広げるアクションコメディ映画の公開が控えています。
それだけではなくバカリズムの公式ツイッターを覗いてみると、決まって明け方近くにツイートされる【直し完了。送信。直し過ぎてもうよくわからない。】や【第七話と第九話の決定稿完成。送信。疲れた。】などの作業報告によって、今もなおバカリズム脚本の作品が水面下で進行中だと分かり、これから発表されるであろう何かに胸がワクワクしてしまいます。
枯れることなく新しいモノを生み続けるバカリズムの類いまれなる才能に今後も期待大です。そして幾つもの仕事を掛け持つバカリズムには決して無理をしないでほしいなと心配も少し。